犬の心臓病
column
じわじわ蝕む…心不全と歯周病
咳や突然の失神、ひどいときは死んでしまうこともある心不全。
心不全を引き起こす病気として様々なものが挙げられる中、実はお口のトラブルである『歯周病』も深く関係していることをご存じでしょうか?
お口のトラブルと心臓トラブル?
一体どこで繋がっているのでしょうか?
今回は心不全と歯周病についてお話していきます。
歯周病って?
心不全のお話をする前に、少しだけ歯周病のお話をしていきます。
あなたのワンちゃん、歯磨きしてますか?
ワンちゃんによって頻度がバラバラな歯磨き。お口の中のケアをしっかりとしてあげないと、大変な病気になることがあります。
人間もそうですが、ワンちゃんのお口の中にはたくさんの菌が棲みついています。善玉菌と呼ばれる口の中の環境を正常に導く菌であったり、歯周病菌と呼ばれる歯茎を腫れさせたり、歯が抜ける原因になる菌が存在しています。
歯周病菌はもともとお口の中を散り散りに漂っていますが、単体で存在しているとヨダレで流されてしまうため、徐々に集合し始めます。
この集合した菌の塊を歯垢といい、これを歯磨きで除去することで嫌なニオイなどを防ぐことができます。
除去されずにそのままにしておくと、歯垢の表面にバリアが張られ歯ブラシで除去できなくなり、徐々に歯石へ変化していきます。
歯周病菌には歯肉の中に入り込み、歯肉やあごの骨を溶かしていく力があるため、歯肉が腫れることはもちろん、ちょっとしたことで歯茎から血が出たり、歯肉がなくなり歯が長く見えたり、歯が揺れだしたりと大きな問題を抱えるようになります。
これを歯周病といいます。
歯周病が進行していくと、歯周病菌に溶かされて起こる「下あごの骨折」や歯周病菌が歯肉にトンネルを掘って顔に穴が開く「眼窩下膿瘍」といったトラブルが起きます。
これらのトラブル以外にも注意しておきたい歯周病菌がらみの病気があります。
それが心不全の原因の1つである僧帽弁閉鎖不全症です。
歯周病と心不全
お口の話は一旦ストップして今度は心臓のお話を。心臓には左心房・左心室、右心房・右心室と4つの部屋があり、心房と心室の間には血液を逆流するのを防ぐ「弁」というものがついています。
弁は開閉をコントロールする筋肉(乳頭筋)と腱索という糸のようなもので繋がれていて、心房から心室へ血液が流れるときにのみ弁が開くようになっています。
これを踏まえて、心不全と歯周病菌の関係を見ていきましょう。
お口の中に棲みついて、いろいろなトラブルを起こす歯周病菌の中には、血管の中に入り込むようなものもいます。歯周病でダメージを受けた歯肉にも血管は通っているので、歯周病菌はすんなりと侵入し血流にのって体の中を移動します。
行きつく先は…もちろん心臓です。
心臓に歯周病菌が行きつくと、心臓の内壁や弁、腱索などに菌がくっつきます。僧帽弁に歯周病菌がくっつくと、菌が増殖して塊を作り、薄い弁からカリフラワーのようなボコボコの分厚い弁に。
腱索にくっつけば、腱索自体がブチブチに千切れてしまうため、乳頭筋が弁の開閉をコントロールすることができなくなってしまいます。
このように僧帽弁がうまく閉まらなくなる病気を僧帽弁閉鎖不全症といいます。この病気は心不全の原因となる病気のひとつで、左心房・左心室間で血液の逆流が起こり、肺に水が溜まることもあります(肺水腫)。
歯周病菌のコントロール
意外なところで繋がる心不全と歯周病。そのままにしておくと、心不全が進行して散歩中に倒れたり、急に亡くなったりすることもあります。
ただ、適切な治療をすれば僧帽弁がコブのように分厚くなったワンちゃんでも、歯周病菌のコントロールを始めると弁の厚みが少しずつ減っていくという事例もあります。
当院では、心臓病の各種検査ならびに歯周病の根治を目指した独自の治療を実施しております。昔は歯石取りしていたけど最近は全く…という飼い主さん、ワンちゃんの心臓は大丈夫ですか?
咳や運動したがらないといった心臓の不調や、口臭・ヨダレが多いなどのお口のトラブルを抱えていたら、ぜひ当院へご相談ください。